未知の司法制度
民事調停委員を経験して
井坂 克治・・・・
国民参加の司法制度
    国民参加の司法制度としては、21年からスタートし、度々報道され、皆さんの関心の高い「裁判員制度」
  があります。また、裁判員と同様にクジで選任される「検察審査会制度」があります、不起訴処分の善し悪
  しを審査するもので、有名政治家団体の土地取引事件で強制起訴され、今も裁判中の事件が代表的な
  例です。
    さらに、推薦・審査などで選任される「調停委員制度」「司法委員制度」などがあります。
    以下、調停委員制度を中心に経験を踏まえ、守秘義務に触れない範囲で紹介したく思います。
調停委員に任命される
    10年ほど前になりますが、定年を間近にして、これからの余生を如何して過ごそうか、旅行や趣味で余
  暇を楽しむのも良いが、健康で元気な間は、今ま
  でに培った経験や細やかなキャリアを生かし、何
  か社会に貢献出来る事をやってみたいという気持
  ちもあり模索していました。
    そんな時、ある知人から「調停委員」になって
  はどうかと勧めがあり、紹介をうけました。
    社会的良識と適切な判断力があれば出来ると
  の甘い言葉に誘われ、法律の知識・司法の世界
  には疎いが、興味も少なからずあり、勉強すれば
  何とかなると、推薦と久しぶりの小論文 ・ 面接を経
裁判所外観写真
  て、平成14年4月に調停委員として任命され、未知の世界に飛び込む事になった次第です。
調停制度について
    調停制度は大正11年に施行され、昭和24年〜26年に確立された歴史ある制度で、世界に類を見ない
  日本独自の紛争解決の制度として注目を集めています。
  調停委員は全国の裁判所 (出先機関含む) のある各地に配属されています。
    札幌地区は、札幌地方裁判所傘下で、家庭裁判所に属し、離婚や遺産分割等の紛争を扱う家事調停
  委員と、簡易裁判所に属し、後に記述する民事に関する紛争を扱う民事調停委員とに分かれています。
  私は民事調停委員としてその任に当っています。
    札幌の裁判所は春の桜をはじめ、ライラック ・ バラ ・紅葉 ・ 冬は雪まつりと、四季を通じて楽しみをく
  れる大通公園に面した所にあります。B型肝炎訟訴で最初に和解勧告があり、テレビで何度も出てくる所
  です。
    社会や経済の争い事、紛争解決の場としては、訟訴による裁判・判決の方法もあるが、法律的条理に
  基ずき双方の話し合いの中から当事者が歩み寄り、合意する事で紛争を解決しょうとするのが調停制度
  です。
    当事者双方の言い分を聞き、その紛争の解決に向けての役割を担うのが調停委員です。
    民事調停では、金銭の貸借紛争 (消費者金融等への返済・不等利得返還等) 、売掛金・請負代金請
  求、不倫等による慰謝料 ・ 家賃滞納請求 ・ 騒音 ・ 悪臭等の近隣トラブル、交通事故や医療事故をめぐ
  る損害賠償など、家事調停対象以外の多岐にわたる紛争を扱います。
    調停は、手続きが簡単、費用が安い、法律的な制約にとらわれない等で、国民の支持を受け利用者も
  年々増加しています。
調停委員となって思うこと
    調停委員の任務も9年半余りがアッという間に過ぎ、24年3月の任期満了による退任まで、あと僅かとな
  りました。
    当初は、最低限度の法律知識と日々の仕事を一日も早く習得すべく無我夢中でした。
    15年頃はバブル崩壊の影響もあり、消費者金融等からの借受金の返済に関わる生活立て直しの為の調
  停が急増した時期でした。利息制限法による利息や返済額の計算、返済計画の立案などで何度となく夜遅
  くまで準備に追われた事を思い出します。
    また、最近は過払金返還請求と言い、法定利息で計算すると過払金が発生、その返還を求める調停が
  増加しています。
    他の一般調停も微増の中、不倫調停や近隣 ・ マンション紛争など、双方の個人的な感情も絡み悩まし
  いもの等、数多くの調停を担当させていただきました。
    スムーズに終了した調停、何度かやって苦労して解決した調停、双方の主張が強く不調に終わった調
  停と、結果は様々でしたが、喜びあり、残念な思いありの毎日だった様に思います。
    同じ様な内容の調停でも、一件々々事情 ・ 状況が異なり、当事者も違うことから、その都度教えられる
  事、知る事も多く、視野と考え方を広める部分で大いに役立ったと思っています。
  さらに、仕事を通じて、当事者の話に十分耳を傾ける事の大切さを改めて知り得た事、民法や商法など実
  務 ・ 研修 ・勉強で学び得た事、様々の業界 ・ 分野出身の先生方と出会い、会話と交流を重ねることで知
  り得た事柄など、新たな人生の経験と勉強になり有意義な10年を過ごせたと感謝しています。
「司法委員」に任命されて
    一年ほど前、「司法委員」という任務を兼務で任命されました、これも国民参加の司法制度の一つです。
  調停委員の経験者を中心に、建築士 ・ 医師 ・ 交通事故専門家・弁護士などから選任され、さの任にあた
  ります。
    簡易裁判所の民事訴訟で、法廷での裁判に参加して審理に立会い、意思を述べたり、和解を試みるの
  に際し、その補助をするのが主な役割りです。最近増加している小額訴訟の和解でも同様に関与 ・ 補佐し
  ます。
    5年ほどの任期ですが、せっかく与えられた機会でもあり、健康に留意し頑張ってみたいと思っていると
  ころです。
おわりに
  振り返れば、三洋勤務に続く15年の長きにわたる、
  司法との関わりになりそうです。
  裁判所は閉ざされた行きずらい所としてのイメージ
  が強くあると思われますが、これは過去の話。最近
  は裁判員など司法に参加する機会が増え、候補者
  や裁判の傍聴で来庁する人、裁判員制度のビデオ
  を見に来る人も多く、オープンな裁判所として出入り
  が自由に出来ます。
  ぜひ一度機会を作り、近くの裁判所へお出かけに
  裁判所前にて
  なって見ては如何でしょうか。